ハンガリーとワインの関係


ハンガリーのワインは2100年の歴史があるとされ、ヨーロッパの中でも古くからぶどう栽培が盛んでした。5世紀ころには契約の儀式にワインが使われていたことが知られています。16世紀半ば、オスマン帝国(トルコ)が侵攻したことでワイン産業は長きにわたって低迷しましたが、17世紀末からワイン産業は復活し、トカイワインを筆頭にしたハンガリーワインは当時の世界最高水準のワインと評価されていました。19世紀にはフランス、イタリアに次ぐ世界第3位の一大ワイン生産国としても知られていたほどです。しかし、ワイン産業はソ連支配下で再び奈落の底を味わうことになりました。この底からも、1989年にソ連のくびきを脱することで抜け出し、国を挙げてワイン産業の復活を期すことで、今では世界からの高い評価を復活させています。
祝福の地「カルパチア盆地」

1000年から1918年まで存続したハンガリー王国の版図は最盛期、いまのスロバキア、ルーマニア、クロアチアなどの国土がほとんど入る広大なカルパチア盆地を覆っていました。そのカルパチア盆地、とりわけその中のトカイ地域を「TERRA BENEDICTA」(ラテン語で「祝福の地」の意)と評して、表題にした本があります。邦題は「ワインの国ハンガリー トカイを巡りて」。ワインの専門家で弁護士、医師、学者のハンガリー人5人が2003年に著した本です。ソ連のくびきから脱して10年余り、EUに加盟する前年のため、この本からは「世界を見返してやる」という意気込み、ハンガリーワインの歴史や文化、品質に対する自負が現れています。
5世紀にはワイン文化

5世紀にはマジャル人(ハンガリー人)によるワイン文化が花開いていたことは、史料から明らかです。大平原が広がるカルパチア盆地の一部は古代にはパンノニアと呼ばれ、紀元前1世紀にはローマが占領しました。4世紀後半にはフン族が侵入して今のハンガリーを主要領土とする独立国家が誕生しましたが、そのころにはマジャル人が広大なブドウ園を拓いていました。 「ワインの国ハンガリー トカイを巡りて」によると、5世紀のころのマジャル人がミルクとワインを主要な飲料にしていたことが記録として残されているとのことです。そして、周辺民族からすると不思議な習慣も知られていました。それは、重要な条約を結ぶ際に、当事者が血の混じったワインで行う血の契約の儀式です。 この良書は「ハンガリーワイン 2100年をたどる」という小見出しのなか、ローマ占領時代以前にも遡ってブドウ栽培の歴史を探っています。ハンガリーとワインの関係はそれほど深く、だからこそ幾度もあった苦難の歴史を乗り越えて、今のハンガリーワインの評価があるのです。
幾度もあった冬の時代

19世紀後半のハンガリーはフランス、イタリアに次ぐ世界第3位のワイン生産国でした。「ワインの国ハンガリー トカイを巡りて」には多くの史実がちりばめられていますが、その1つは1540年代初頭にBuda(首都ブダペストの西側)がオスマン帝国(トルコ)に征服されて「ワイン貿易の心臓部が致命的打撃」を受けた史実です。 17世紀後半にはオスマン帝国が撤退。ハプスブルグ帝国の下でヨーロッパ経済圏に入ったことでワインは再興し、トカイワインを筆頭に当時の世界最高水準のワインと評価されるまでになりました。 しかし、第二次大戦で日本と同じ枢軸国側にいたハンガリーは敗戦国となりました。戦後はソ連支配下の東欧の国となり、ハンガリーのワインはソ連に送るために「質より量」を求められました。「ワインの国ハンガリー トカイを巡りて」には、「国有化、個人財産の収用、移送、農業産業の強制的集約化がワイン市場の構造基盤を破壊した」とあります。
1989年、共和国化で品質向上へ

歴史を積み重ねてきた優秀なブドウ畑が消滅させられる一方で、ブドウ栽培の不適地にブドウが大量に植えられて10年ももたずに枯れる。そんなこともあったようです。劇的な変化は1989年、ソ連崩壊の2年前にハンガリー共和国(現ハンガリー)の成立によってもたらされました。 ハンガリー共和国は家族企業、真正な協同組合、ワイン法を復権。ワイン文化の担い手たちがこぞって「量より質」の本物のワイン醸造を喜び勇んで手掛け始めました。トカイワインに使われるフルミント、世界的に有名な赤ワイン、エグリビカヴェールに使われるカダルカなど、多くのブドウ品種が丁寧に育てられ、熟成され始めたのです。そして、ハンガリーのワインは再び世界から高い評価を受け始めました。もちろん、MONTE TOKAJもその1つです。

ワイン祭り

そんな現代ハンガリーにおいて、多くの国の人たちも楽しみにして訪れるのが、毎年9月上旬に行われるブダペストのワイン祭りです。ドナウ川沿いの観光名所、ブダ城の敷地すべてが会場となるこの祭りは4日間にわたって続き、国内22産地の150ワイナリー以上が店を並べ、テイスティングをさせてもらえます。 トカイワインやエグリビカヴェール、バラトン湖周辺の白…。各種ワインの香りと味わいを多くの人が楽しみながら、日付が変わるまで続くこのイベントは、数多の苦難を乗り越えて高い評価を取り戻したハンガリーワイン文化担い手たちの喜びの場でもあります。