食と農業


ハンガリーは農業大国です。その理由は国全体がカルパチア盆地にすっぽりと入り、国土のほとんどが農業適地になっていることがあげられるでしょう。空からみても、鉄道や車などから遠望しても、延々と畑が続く景色というのは珍しくありません。ハンガリーの国土は日本の4分の1程度ですが、その半分が耕作地ということです。
農水省が2018年度に更新したハンガリーの農林水産業概況によりますと、主要農産物はとうもろこしや小麦、ひまわりの種、生乳、豚肉などとなっています。ひまわりの種というと意外に思う方が多いと思いますが、ハンガリーのスーパーに行けば理由がわかります。ひまわりオイルがたくさん並んでいるからです。オリーブオイルももちろんたくさんありますが、ひまわりオイルの方がお手頃なのでしょう。日本のサラダ油よりもさらっとしていて、癖がないので普段使いにはもってこいです。

マンガリッツァ豚

豚で有名なのは、ハンガリーの国宝・マンガリッツア豚です。もこもこしたその姿はとても愛嬌があります。そのマンガリッツァ豚は脂肪率が世界でもっとも高い豚とされ、濃厚な赤身の他に良質な脂も取れます。
その味わいは脂の部分も含めて美味なのですが、20世紀後半からは「脂より赤身」が重視され始め、比較的飼育の難しいマンガリッツァ豚は激減。1991年には198頭にまで減少したといいます。これを受けてハンガリーでは飼育管理制度が創設され、残りわずかなマンガリッツァ豚を保護し始めました。2004年にはハンガリー国会が国宝に認定しました。
国宝ですが、食べられる。感覚的に変な気がする話ですが、2009年にマンガリッツァ豚を日本に紹介したピック社は「食べる人がいるからこそ飼育が盛んになり、限られてはいるものの、飼育が可能な頭数が保たれます」と説明しています。ハンガリーに行った際には是非味わっていただきたい食材です。

フォアグラ

フォアグラというとフランスが頭に浮かびますが、ハンガリーは世界有数のフォアグラ産地であり、消費国です。それなりのレストランでは必ずフォアグラ料理がメニューに並んでいますので、ハンガリーを訪れる機会があればぜひともトカイワインとのマリアージュを楽しんでいただけたらと思います。
ハンガリーのそれなりのスーパーではごろっとしたフォアグラの塊が売られています。宿泊先のホテルなどで調理するのも一興です。ハンガリー人に聞くと、頻繁に食べる食材ではないとのことですが、年に一度は必ず食べるとも話していました。
その日が11月11日の「聖マールトンの日」。カトリック教国・ハンガリーが最も大事にする日の1つです。この日は新ワインの解禁日でもあり、1年の収穫を祝う感謝祭の意味も込めてこの日に近い週末の3日間、ハンガリーの人たちは新ワインと一緒にガチョウや鴨、そしてフォアグラをいただくのです。
フォアグラにはオアとカナールがあります。オアがガチョウ、カナールが鴨の肝臓です。一般的にはオアの方が少し高く、食感がしっかりしていて調理しやすいです。ハンガリーのフォアグラは日本にも多く輸出されており、日本が輸入するオアの量はハンガリーからが最も多いとされています。日本でもネット販売などで購入できますので、国内にいてもトカイワインとのマリアージュを楽しんでいただけます。

ハチミツ

日本でもっとも馴染みのあるハンガリーの食材は、ハチミツでしょう。百貨店などで並んでいるハチミツを手に取ってみれば、ハンガリー産であることが多いと思います。その背景には、ハンガリー産のハチミツがヨーロッパの中で最もおいしいとされるほど評価の高いことがあります。
在日ハンガリー大使館の説明によると、広大な農地が広がるハンガリーでは、1種類の果樹や花を広い範囲で栽培していることが多く、作物と作物の物理的な距離が離れているために単花のはちみつ(一つの花の種類で作られるはちみつ)が生産しやすいとのことです。
ハンガリーのスーパーで最も多く見かけるのが、日本でも人気のアカシアのハチミツです。1つの花に限らない、日本では一般的な「百花蜜」のハチミツも多く売られており、濃厚な味わいを楽しめます。 ハチミツが身近なハンガリーでは紅茶(カモミール)に砂糖ではなく、はちみつを入れて飲むのが定番です。エスプレッソやカフェ・オレなどにはちみつを入れる飲み方も人気です。ハンガリーではハチミツがお手頃な価格で手に入りますので、ぜひ試してみてください。